大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和44年(わ)783号 判決

主文

被告人を罰金二、五〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(本件犯行に至る経緯)

一、塩水港精糖株式会社の大阪工場閉鎖とその背景となった業務提携について

昭和三八年八月に行なわれた原料糖の輸入自由化、これに伴う過剰設備投資等によって、砂糖業界の各社は、そのころから次第に大幅な赤字経営に陥り、塩水港精糖株式会社(以下、単に塩水港または会社という)もかかる事態を切り抜けるために経営合理化に迫られていたところ、昭和四三年秋ごろ、精糖業界寡占化の動きに応じ、塩水港、その親会社である大洋漁業株式会社、同会社とあらゆる面で緊密な関係にあった三菱商事株式会社、同会社が販売部門を一手に引受けていた大日本精糖株式会社の四社間で、塩水港と大日本精糖株式会社との業務提携に関する委員会が設けられて検討された結果、両者間で同年一二月二八日業務提携の覚書が交された。これにより、会社は、昭和四四年四月一日(以下、単に月日で示すものは昭和四四年のそれを指す)を期して、塩水港大阪支社所属の大阪工場を閉鎖し、同工場跡では主として倉庫業を営み、退職を希望する者以外の同工場全従業員を横浜工場に配置転換することを決定し、一月八日、大阪支社において、同支社全従業員に対しこれを発表してその協力を求め、さらに当時唯一の労働組合であった総同盟加盟の塩水港精糖労働組合(大阪支社での当時の組合員数、約一三五名、以下、単に同盟系組合という)の執行部に対しても、本社(横浜市所在)あるいは大阪支社において、団体交渉を行ない、転勤する者の住宅、子弟の学校等について、工場閉鎖に関する計画書に基づきある程度までの細目を説明し、その後一月下旬ごろまでに前後四、五回にわたり、特に一月二二日、二三日ごろには本社から久永専務らを大阪支社に派遣し編成案等を示して、その経緯を説明した。

二、塩水港大阪工場閉鎖に対する同盟系組合の態度と組合の分裂

同盟系組合は、右事態に対し、当初工場閉鎖反対の立場をとったが、その後一月一三日ごろから会社と団体交渉を重ね、会社側から詳しい経緯の説明を受けるうち、一月下旬ごろ、従来の基本的態度を緩和して、転勤者に対する支度金の支給、社宅の確保および退職者に対する退職金の優遇措置等につき、同組合の主張する条件が満たされるならば、会社の決定した工場閉鎖の方針を止むを得ないものとして受け入れる態度を打ち出して、会社にこれを伝えた。

ところが、組合の右条件闘争に対し、前組合長磯部徳治郎らを中心とする一部の組合員は、当初の基本方針を支持し、工場閉鎖は従業員の実質的首切りであるとして、これに絶対反対する態度を固持し、右執行部と対立するに至ったため、組合分裂の状態となり、二月一二日、総評化学同盟塩水港精糖支部という形で、支部長を右磯部、副支部長を田辺某、書記長を加来洋八郎とする新しい組合を結成したとして、同日午前中、総評大阪地評オルグの被告人、右磯部ら一〇数名が塩水港大阪支社に赴き、西原支社長らに対し四〇数名の加入届とともに組合結成通知書を差し出して、直ちに新しい組合との団体交渉を求め、その席で組合事務所の貸与、組合掲示板の設置、組合活動に不当介入しないこと等の四項目の要求書を手交したところ、同支社長は、右加入届に署名している者らがなお従前の同盟系組合を脱退したという通知を受けていないので、このような状態で団体交渉を行なえば、同組合に対する不当介入になるので、同組合に脱退の事実を確認するまでは団体交渉に応じられないとしてこれを拒否しつつも、大阪支社総務部長葉山健作らに事実上話合を続けることを命じたうえ、所用で外出したが、その直後その場へ駈けつけた総同盟大阪一般労働組合のオルグ斉藤務ら数名と被告人らとの間で、新しい組合の結成につき、紛争を生じ、支社長室前付近において、被告人らが右斉藤らから暴行を受けるという事態が発生した。

その後、前同日午後六時過ぎごろから、前記磯部ら会社従業員約三〇数名が大阪市港区の港湾会館に集合して組合結成大会を開き、総評オルグの指導によって、新しい組合として総評化学同盟塩水港支部(以下、単に総評系組合という)を結成し、上部団体である総評化学同盟に加入したが、右大会に参加しながら同盟系組合にとどまるものが多く、結局八名位の者が翌一三日ごろ同盟系組合に対し脱退届を提出したにとどまり、総評系組合は磯部支部長以下合計八名位の少人数で発足するに至った。

三、組合分裂後の各争議経過

同盟系組合は、前記のように一月下旬ごろ条件闘争の方針を決定し、二月一二日の同組合大会でこれを確認するとともに、二月一三日ごろから会社と団体交渉を重ねたが、退職者に対する退職金優遇措置と転勤者に対する待遇等の条件について折り合いができず、二月二八日からストライキを行ない、当初の団体交渉から前後合計一〇回位の団体交渉を重ねた結果、三月二日会社との間で「退職者については特別加給金に退職金規定の一〇〇%を加算する、転勤者については仕度金に旅費規程の五〇%を加算する」等の条件で妥結するに至り、同日直ちにストライキを解除し、その結果、同組合員らは会社に対し三月四日から三月六日までの間に転勤するか、退職するか、いずれかの希望を届出ることになった。

他方、総評系組合は、被告人や前記磯部らを中心に、二月一二日以降、会社に対し何回となく団体交渉を求めるとともに、要求事項としての組合事務所の貸与等につき具体的な回答を待っていたが、会社側の責任者とは一切会えず、主としてその窓口として接渉にあたった花崎茂樹大阪支社総務部次長からも、団体交渉の権限がないとか、本社からは何らの指示、回答もないとか、団体交渉ことに組合事務所貸与等の問題は本社の方で取扱う性質のものであるとかいう返答があっただけで、大阪支社の幹部との団体交渉さえも拒否された状態であったため、二月二一日、大阪地方労働委員会に対し不当労働行為として救済の申立をなすとともに、会社に対し重ねて団体交渉の開催や組合事務所の貸与等を要求していたところ、二月二六日ごろ、会社から三月三日に横浜本社において団体交渉に応ずる旨の回答があった。なお、二月二八日、同盟系組合のストライキ実施に伴い、総評系組合もこれと歩調を合わせてストライキを行なうに至った。

かくして、三月三日、本社において、会社と総評系組合との団体交渉が行われ、総評系組合は、その席で従来どおり組合事務所貸与等について強い要求をしたのに対し、会社は、二つの組合があることは会社の今後における運営上からも支障をきたすので、同盟系組合に一本化して欲しいと考えていたほか、同盟系組合とはすでに妥結し、争議行為も終っており、同月末までには予定どおり大阪工場閉鎖に持ち込み得る見通しを持っていた時でもあったから、総評系組合の取扱いそのものについて明確な結論を持たず、これに組合事務所を貸与するかどうかについても明言しないまま、団体交渉を三月六日ごろに続行することになったが、その経過は、三月三日午後二時ごろ本社での団体交渉に出席した総評化学同盟の長浜某から被告人に対し、会社と同盟系組合との間の前記妥結条件の具体的な内容と併せて電話で伝えられたので、被告人や総評系組合員らは、このような厳しい事態に陥った以上工場閉鎖反対を強力に押し進めて行くためには、会社構内に組合活動のできる場所を確保して、これを拠点に組合員の団結、相互連絡を図り、かつ何時でも会社側と団体交渉を開きうる体勢を整える必要があると考え、直ちに支援労働組合等に連絡して、これを支援する者らとともに、同日午後六時過ぎごろ、国鉄環状線西九条駅前に集合するに至り、総評系組合を支援するビラ撒きや集会を行なったうえ、同所から塩水港大阪支社へ向った。

(罪となるべき事実)

被告人は、前記の総評系組合の上部団体である総評大阪地評組織局に所属し、オルグをしている者であるが、全大阪反戦青年委員会西南地区反戦に所属していた分離前の相被告人新里良光、右総評系組合員、およびこれを支援する労働者ら約四〇名の者と共謀のうえ、大阪市此花区西野下之町四三番地所在、塩水港大阪支社の食堂二階の娯楽室を組合事務所として利用するために占拠したうえ、直ちにその階段等に材木等でバリケードを構築したりして封鎖しようと企て、三月三日午後八時ごろ、同支社正門から警備員前田功らの制止を聞かず、一団となって同支社構内に入り、さらに前記食堂二階の娯楽室に上がり、直ちにその階段等を木材や机等で封鎖して、三月六日午前八時過ぎごろまで同室を占拠し、もって故なく同支社長西原敏威の管理する同支社構内に侵入したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、行為時においては刑法六〇条、一三〇条前段、昭和四七年法律第六一号罰金等臨時措置法の一部を改正する法律による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、一三〇条前段、昭和四七年法律第六一号罰金等臨時措置法の一部を改正する法律による改正後の罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するが、右は犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、そこで判示に認定したような本件犯行に至る経緯や犯行の内容、本件犯行後会社と総評系組合との間で、争議行為の発端となった工場閉鎖の問題につき団体交渉が重ねられた結果、五月二七日円満に協定が成立し、すでにその協定に基づく履行もとどこおりなく終了していること、および本件について現行犯人として逮捕された二〇数名のうち、起訴されたのは被告人と新里良光の両名だけであって、本件犯行の計画実行について必ずしも終始被告人が最高責任者の地位にあったとは認め難いこと等を総合して、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内で被告人を罰金二、五〇〇円に処し、被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、

刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、被告人にこれを全部負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件当時総評系組合と会社とは争議中であり、会社が同盟系組合には十分に組合事務所を与えながら、総評系組合に対しては度々要求があったにもかかわらずこれを与えず、総評系組合の壊滅を企てる同盟系組合を勝手気ままに行動させるという事態の中で、被告人らは総評系組合の活動のための最少限度の必要を満たすための拠点としての組合事務所を確保するために、平穏に大阪支社内に立ち入り、会社業務に支障のない娯楽室を占拠し、会社側に味方する同盟系組合の暴力行為に備えるためこれを封鎖したにとどまり、暴力的破壊行為はなんらなしておらないので、本件立ち入り行為は正当であって違法性はないと主張する。

そこで、被告人らの本件立ち入り行為の背景、目的および態様等諸般の事情を総合検討して、その正当性について判断することとするが、被告人らの本件立ち入り行為は、前記認定のとおり、組合活動の拠点とするための組合事務所確保の目的に出たものであって、前掲各証拠によれば、判示冒頭記載の経緯により総評系組合が結成された後、総評大阪地評オルグの被告人および同組合幹部らが会社に対し組合事務所貸与等の具体的な四項目の要求を明らかにして再三団体交渉を求めたが、会社側は当初これになんらの回答をもせず、二月二六日になってはじめて団体交渉に応じる旨の回答をし、同組合が結成されてから約二〇日を経過した三月三日に本社で団体交渉が開かれるに至ったこと、その間、会社は、前記業務提携に伴う細目にわたる対外接渉に意外に長い時間を要し、また前記のように条件闘争の方針を打ち出した同盟系組合との団体交渉に追われるというような事態に見舞われたとはいえ、総評系組合にとって最も急を要する時期に同組合との団体交渉を怠ったため、同組合より大阪地方労働委員会に対し、会社のかかる団体交渉拒否が不当労働行為にあたるとして救済の申立がなされ、その結果双方の事情を聴取した同委員会の勧告によって右団体交渉が開かれる運びになったこと、そして、当日本社における団体交渉の席においても組合から組合事務所貸与の要求が出されたが、会社は、前記認定のように総評系組合の取扱いに明確な結論を持ち得なかったうえに、当時同盟系の組合には昭和四〇年七月同組合結成当時に会社より貸与された組合事務所のほかに、工場閉鎖問題を調査検討する同組合特別調査教宣部のために総評系組合結成以前の一月下旬ごろ会社から特に別個の事務所が提供されており、会社としては、同盟系組合との交渉が妥結した情勢のもとでは後者の事務所の返還を受けてこれを総評系組合に組合事務所として貸与することも可能ではあったが、これを同組合に貸与すれば、対立する両組合の組合事務所が隣り合わせになってトラブルの起きる危険性を予想したため、組合事務所の貸与について明言することを避け、団体交渉は三月六日ごろに続行されることになったこと、一方会社と同盟系組合との間では、同月二日前記認定のとおりの条件で交渉が妥結して、直ちに工場閉鎖に伴う退職、横浜工場への転勤手続等がすすめられ、放置すれば工場閉鎖の避け難いことが明白になってきた客観的情勢のもとで、工場閉鎖反対の態度を固持している総評系組合の組合員および上部団体に所属する被告人らは、同組合が同盟系組合と比較して少人数によって構成されている組合であるため、会社側によって既成事実の力でせいぜい同盟系の組合に対するものと同一内容の条件で押し切られるのではないかとの懸念を抱き、従来からの会社側の態度からみて、今後効果的な組合活動を続け、同盟系組合とは別個独立に自らの主張を掲げて闘争するためには、同盟系組合と同じように会社構内に組合事務所を確保することが先決問題であると考えたこと、これを客観的にみても、前記のような会社側の態度と情勢のもとでは三月六日ごろの次回団体交渉において会社側と対等の立場で話合って、容易に組合事務所貸与等の要求が満たされる見込は極めて乏しく、総評系組合としては、組合員の団結を維持し会社を相手として効果的な交渉を行なうために大阪支社内に組合事務所を早急に確保しこれを拠点に組合活動をする緊急の必要性があったこと、もっとも、立ち入りの目的に関しては、総評系の組合を支援する者の中に、検察官主張のように、総評系組合支援を契機として自己の政治的意図を実現しようとした者があったことが窺われないでもないが、かかる者があったとしても、これは派生的な現象にすぎず、総評系組合員およびその上部団体に所属する被告人らは、工場閉鎖、配置転換反対という同組合の主張を貫徹するために組合事務所を確保する目的で本件立ち入り行為を行なったこと等の事実を認めることができる。

次に被告人らの本件立ち入り行為の態様および立ち入り後の行動(立ち入り行為の正当性の判断に必要な限度において)についてみるに、前掲各証拠によれば、本件立ち入りの時刻は、会社側の管理者がすでに退社し、夜間操業に必要な人員と現場責任者しかいないと予測される午後八時ごろであったこと、しかも総評系組合員、総評関係のオルグおよび支援労働者合計約四〇名が、そのうち約半数以上の者においてヘルメットを着用し、または手拭いで覆面したうえ、二群に分れて順次塩水港大阪支社の正門付近に集合し、被告人を先頭に最初集合した一〇数名位の者が、警備員から行先用件等を聞かれたのに対してなんら返答せず、たまたま正門付近で自動包装機の搬出作業中のため開扉されていた正門から警備員室前付近まで入り込み、間もなく後続の集団約三〇名位の者が到着するとみるや、一斉に構内に走り入ろうとし、これを見た警備員が構内に立ち入らせまいとして、手を広げて「入るな、待て」と声をあげ、かつ数名の身体を掴むなどして制止したのにもかかわらず、交々「我々の事務所を作るのに何が悪い」「文句があるんか」等と言いながら構内に走り込んだこと、そして、そのまま二、三〇メートル離れた木造二階建の建物の階下の食堂に入り、警備員の注意をも聞かず、土足のまま二階娯楽室(大広間、一二畳半と八畳の部屋、サンルーム)へ駈けあがり、直ちに食堂その他の大阪支社構内や会社外からそれぞれ搬入してきた椅子、机、長さ二メートルないし一・七メートルのたる木四〇本位、長さ三メートルないし一・六メートルの稟木四〇本位その他幕板、パレット、パネル等によって食堂から娯楽室にあがる正面階段に容易に排除できないほど強固なバリケードを構築し、窓には畳やベニヤ板を立てかけ、これを固定させるため上から角材等で押えまたは支柱を作り、これに鎹、釘を打ちつけるなどして封鎖し、外部との交通を全く遮断して娯楽室を占拠し、自らの出入りには裏側の非常階段を使用し、ある者は娯楽室内に参集したり、ある者は食堂や正門付近を監視し、さらにこのような事態になったことを警察等へ電話連絡しようとした警備員の受話器を取りあげて、これを制止するなどの行為に出た者もあったことが認められ、右のごとき立ち入り直後の行動から推測すれば、被告人らは、立ち入り当時から娯楽室の右のごとき封鎖を意図していたものと認めざるを得ない。かように娯楽室を封鎖した点については、前記認定のように二月一二日大阪支社長室付近で被告人を含む総評系組合員らが前記斎藤らから暴行を受けるという事犯が発生したことのほか、前掲各証拠によれば、同盟系組合員ないし上部団体のオルグらがそのストライキ中の二月二八日、大阪支社構内においてプラカード等を持ち、総評系組合側と大阪支社の花崎総務部次長らとが話合っていた場所の近くで「総評の組合をつぶせ」等と言いながらデモをして総評系組合に対し挑戦するような態度をとったこと、また二月中旬ごろから同月下旬にかけて、本社ないし横浜工場の同盟系組合員や上部団体のオルグが多数大阪支社に来たうえ、総評系組合に加入させないための従業員に対する種々の説得活動等を行なったことを認めることができるが、同盟系組合員やその上部団体のオルグらがこれ以上過激な行動に出たことはなく、当時さらにこれらの者が総評系組合員に対して暴力行為を行ない、あるいは会社において、いわゆる暴力団員を雇って総評系組合員に対して攻撃を加えるような具体的危険性の存在する状態ではなかったことが明らかであって、右のような封鎖の必要があったとは到底認め難い。また、被告人らは娯楽室を占拠中、階下の食堂で会社発行の食券により、同盟系の組合員その他大阪支社の従業員と同様平穏に食事をしていたことが明らかであるが、前掲各証拠によれば、これは事務担当者が慣例に従い総評系組合員に対し、その申出によって食券を販売交付したにすぎず、特に担当上司に、事前に指示を仰いだことも、事後に報告したこともなく、後にこれを知った花田大阪支社倉庫所長が事務担当者に対し会社従業員以外の者に食券を販売しないように注意したことを認めることができ、右事実によれば、会社が被告人らの本件立ち入り行為およびこれにつづく娯楽室の占拠を容認していなかったことが明らかである。

一般に企業内労働組合が組合事務所として使用者の施設の一部を使用するためには、使用者との合意に基づき使用者からその貸与を受けなければならないことは当然であるが、現在の労働慣行に照らし使用者が不当に事務所の貸与を拒否したと認められる場合、例えば一企業内に二つの労働組合が併存するのに、ことさらに一方の組合のみに対し事務所の貸与が可能であるのにその貸与を拒否したような場合には、労働組合が使用者の承諾を得ずに使用者の施設の一部を事実上組合事務所として使用したとしても、諸般の事情に照らしてこれを必ずしも違法となし得ない場合のあることは否定することができないといわなければならない。しかしながら、本件においては、上記に詳細に認定したとおり、総評系組合において組合活動の場所的拠点としての組合事務所を確保する緊急の必要性が存在したことはこれを認めることができるが、一方被告人らは、上記認定のとおり、立ち入り当時からバリケード構築等の封鎖による娯楽室の占拠を意図して立ち入り行為に出たものであって、単に組合事務所を確保しこれを通常の状態で利用しようとするものでなく、従来の労使の慣行を無視した一方的な行動であり、かような封鎖による占拠を必要とするような事情も見当らない。

以上、本件立ち入り行為に至る経緯、その目的、手段および態様等を総合して検討すれば、被告人らの本件行為は、社会通念に照らして、労働組合の目的達成のための活動として正当と認められる程度を超えていることが明らかであるから、労働組合法一条二項を適用して、これを正当行為であるということはできないし、また他に違法性を阻却すべき事由を認めることができないので、弁護人の主張はこれを採用することができない。

よって、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例